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●インタビュー/鈴木喜一(建築家・神楽坂建築塾事務局代表)
01●神楽坂建築塾も早いもので四年目になりますね。
そうですね。1999年5月に開塾したのですが、これまで修了制作あるいは修了論文を提出してくれて修了証書を手にして再び建築関係のフィールドに飛び出していったのが延べ105人。残念ながら諸般の事情で修了証書を手にできなかった人をあわせると150人以上になります。彼らが建築塾のネットワークを生かしながら建築の世界を少しずつ変えようとしているという兆しが徐々にでてきましたね。
塾生の中には建築家志望者だけでなく、一般の建築愛好家から林業に携わっている人、大工さんから建具屋さん、家具職人にいたるまで様々な職能の人が参加している。工務店経営者や編集者、デザイナー、写真家、現役の学生もいる。もちろん家を新しくつくりたい人、あるいは古民家を持っていて改修活用したいというテーマを持って入塾してくる人もいるという具合です。
ですから建築塾が教室の講義だけにおさまらず、学んだ事柄を確かめようと現実のそれぞれの仕事や活動の中に浸透していくのは当然の気運なんです。4月号で発表した安藤カンティネッタの施工ボランティアはそのいい例ですね。僕のアトリエの仕事である武蔵野美術大学の木造校舎の再生(3月号)にも塾生が塗装工事等に多数参加してくれました。また、森林教室や歴史的な町並みのスケッチ会、講師の仕事の見学会等も随時開催しています。実物に触れるということがとても大切なことですからね。
02●番外編ではよく中国に行っているようですね。
〈中国民家探訪の旅〉ですね。平良敬一塾長や写真家の大橋富夫さんと一緒に旅しているのですが楽しいですね。講師の青山恭之さんや泉幸甫さん、それに岡山の古民家再生工房のみなさんも参加しています。もうすでに4回実施したんですよ。中国の奥地にまで出かけていって古い集落の実測やスケッチをみんなでする。講師も塾生もほんとうに熱心に学んでいます。過去の集落から優れた特質を体全体で実感することは未来に向けて大事なことですからね。今年は9月、陝西省・河南省・山西省一帯に分布する地下住居ヤオトンを訪ねる予定です。自然と一体化した名もしれぬ大地の住まいの心地よさを体感するためです。
03●第三期修了制作展の内容はどうでしたか?
44点が提出されましたが、どれも力作揃いでした。今年もアユミギャラリーで一般公開(2002年3月29日〜4月3日)したのですが、年々表現レベルが上っているという評判でした。塾生のほとんどは普段働いている(あるいは現役の学生や主婦)ので、それぞれの日常を抱えているわけですよね。その中でもこれだけ充実した内容のものができるのかと思わせる制作や論文でした。フットワークの軽さは神楽坂建築塾の信条なのですがフィールドワークが活き活きしているものが多かったですね。
論文の中では橋本雅永子さんの「地域に風土性を取り戻す」というレポートが秀逸でした。土地利用の視点からまちづくりの考察をしているのですが、日本のみならず海外の事例や文献を援用しながら具体的で読み応えのある、しかも現在のまちづくりに対する冷静な判断と強い批判の姿勢が読み取れるものでした。
小林葵さんの制作「柱間装置再考」も力作でした。日本民家園と江戸東京たてもの園に移築された民家を訪ね、そこに現存するすべての建具を実測・スケッチしているんですね。さらにそれらを時系列にまとめ、「開放的間取り」(江戸)→接客空間の発生(明治)→「公私の空間分離」(大正)→個室化(現代)へと続く変遷を、間取りの性格からまとめているものでした。建具が持つさまざまな機能(遮蔽、採光、通風などの他に「柔光」という造語も)を、その素材からも整理している。
福富葉子さんの「生活空間の『音風景』」も印象に残っています。彼女のフィールドワークの原点は、かつて農村の廃校になった小学校で宿泊した時の、夜のとばりの中で聞いたカエルの声や風のそよぎだったようですね。建築塾第一期生の音響設計専門家のサポートを得て、騒音計を手に駅やCDショップ、電車の車内などを丹念に調査したんです。私たちが、日頃どんな音に囲まれて生活しているのかを、音質別のマーキングという手法で視覚化していました。快適な音風景を真摯に追求している制作でした。
04●いよいよ第四期が始まりましたが?
5月11日に第1回講座が開かれました。今年度の建築塾のテーマは「まちと建築を再生する」ということで、平良塾長に「再生の哲学」を語っていただきました。再生の言葉の意味を掘り下げて、具体的実践のベースになる認識を明確にする坐学でした。講義全内容はホームページでも紹介しているのでぜひ一読していただければと思いますが、塾長の語り口を一部紹介しておきましょう。
「保存の仕事をする時は、生活する人のライフスタイルを考えて、保存と活用とのバランスをはかることが大切なんです。そうしてはじめて新しい価値が生まれてくるといってもいいんじゃないかな。保存するだけで終わってはいけない、そこを未来にわたっていかにどうつなげて生き続けさせるかという視点、要するに、あとあとまで面倒を見続けるということが大切なんです」
「古い伝統的な環境には、強いパワーがそなわっているということを、毎年の建築塾の行事になってきた中国ツアー(トン族や安徽省の民居集落)でしみじみと感じました。われわれを感動させる力、教育力を持っている。そういうところに若い人がもっと行って、いろんな影響を受けてきてほしい。その影響とは、現代の大都市のあり方と対比して、われわれのライフスタイルとは違う生き方が現に存在している事実を実感することです。貧しい状態かもしれないが、現実に存在している。そのどちらが本当に価値があるのか、といったことを考える契機になるんですね」
(住宅建築2002年6月号掲載)
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