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これまで定量化されず、データによる検証がほとんどなされてこなかった伝統木造技術に、はじめて構造力学からアプローチし、実践的な研究によって、貫を使った伝統型構法の復権を提唱している丹呉明恭氏と山辺豊彦氏。誤解や思い込みではなく客観的な数値に基づいて、粘り強いそして環境にもやさしい家をつくる手法をお話しいただきました。 |
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検証された伝統技術 丹呉:93年から山辺さんと木構造の勉強会をしています。その成果がある程度まとまってきました。その構造の勉強会をどうしてはじめたか、ということですが、私は設計屋なものですから図面を描きます。それで木造の図面をつくる時にどうも確信が持てないことが多かった。 たとえば基礎伏図。そこにはいろんな要素がありますね。通風のための換気口をどう確保するか、人通口をどうするか、ということについて、「これで完璧だ」という確信が持てなかった。これはどうもまずいんじゃないかということで山辺さんに話を持ちかけてはじまった、ということなんです。初めは山辺さんは乗り気ではなくてね(笑)、今でも「木造に引きずり込まれた」なんて言っていますが、私としては図面をつくる時に確信をもちたい、という目的だったわけです。 |
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この家は、仕上げは一階が杉南京下見張り、二階がラスモルタルの漆喰塗り。内壁は土壁漆喰仕上です。これが原形の仕上げです。この住宅の木材はすべて杉です。これは私が秋田県の杉産直のモクネット【※1】という活動をしていたからここの規格材を使ったわけです。天井も床板も杉です。架構を見ると、渡り腮で梁と梁を組んでいます。そして梁と柱は込み栓でつながっている。この込み栓も山辺さんとの勉強会の成果です。この家では何百本もの込み栓を使っています。
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【※1 モクネット】 |
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地盤調査から設計は始まる 山辺:家を建てる前にはまず地盤調査をします。これはスウェーデン式サウンディングという方法です。これはとてもローテクな仕組みでして、先端にスクリューポイントのついたシャフトに100kgの重りを載せて、自沈するか回転で沈むかを25cmごとに半回転数を記録していく。大工塾でこの道具を持っていまして、このデータを自分たちでつくり、自分たちが地盤の性状を知るということにつながる。非常に基礎的な勉強になりますね。
丹呉:スウェーデン式を導入する前は、ただ現場の勘だけが頼りでした。地盤を調べるにしても現場で1メートルくらい掘っては「これはいいや」とか「ここは締まっている」などと判断していたんです。
山辺:「アンカーボルトはコンクリート打設前に前もってセットする」、このことが現場では意外と守られていないことを知ってショックを受けたことがあります。
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合理的な基礎のあり方 丹呉:もうひとつ、基礎下に割栗石を敷くことが一般的ですが、これについても「どうして割栗なのか」「砂利ではだめなのか」「どんな意味があるのか」といったことが不明確だったんですよね。「グリ8寸」と言われているけれど、現場も図面通りにはやっていなかったりする。これは力を地面に伝えることができればいいのであって、割栗石だろうが敷砂利だろうが変わらない。ならば私は簡単な方を採用します。 山辺:最近は環境対策の視点から、再生砕石というコンクリートを破砕したものを使うことも多くなってきました。ぼくはむしろそれを使うべきだと思います。 丹呉:床下の換気についてですが、足下を固めるための布基礎によって換気がしにくくなっています。それでどうやって大きな換気口をつくるかが問題になった。 |
【※2 根切り】
【※3 釜場】
【※4 無双】 |
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コンクリはロースランプで打て 山辺:基礎の役割とはなんだろう。まずは重量を地盤に伝えること。そして地震の時には基礎を介して摩擦力・受動土圧でもってエネルギーを地面に伝える、という役目なんですね。ではアンカーボルトはどうしますか? 皆さんはどうしていますか。図面にきちんと指示していますか。ましてや現場ではどこが耐力壁かすらわからない、それで適当にアンカーボルトを埋めているなんてことになっていませんか。まず、耐力壁があったらそこの両端にアンカーボルトを打つ、という習性を持つべきですね。 日本では21cmのコンクリートを打って慣れてしまっている。だから水みたいなものを打って、それで平気だと思っている。商売の面でも、立米いくらでカネを払っているから軟らかいコンクリートを打ったほうがいいに決まっている。そういう体系が日本のコンクリートを悪くしているというのが事実です。だからみなさんも図面に15cmのスランプと書くだけでもずいぶん違ってくるんじゃないかなと思います。 それともうひとつ挙げれば、資料でも書きましたが、基礎立ち上がり頂部の鉄筋に沿って生じる沈みクラック(ひび)ですね。これなども十分、二十分経って表面をコテで均すだけで簡単に直ることなんです。こんなのがあったら人災ですよ。だから現場の監理はしっかりやってもらいたいですね。
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【※5 スランプ】
【※6 単位水量】
【※7 混和剤】
【※8 AE剤】
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伝統型構法の詳細 丹呉:家づくりのシーンを見ていきます。柱は4寸角の杉、貫は9分×4寸の杉、込み栓は6分φの楢、と仕様を決めています。貫は四段です。ここらへんの数字はすべて山辺さんといっしょに勉強会をやって決めた数字です。梁はすべて渡り腮で組み、壁倍率【※9】2.0の土壁を使っています。
山辺:長手方向の梁が同じ断面で続いてますが、梁はできるだけ同一材で長く伸ばしたい。そこに直交方向の梁がすべて渡り腮で乗っかってくる。出隅の柱を見てみると、上の柱は上段の梁に対しては長ホゾ込み栓で結んでいる。一方下の柱は下段の梁に対して長ホゾ込み栓で止まっていますね。出隅で耐力壁が入ったとすると、一方の引き抜きに対しては片持ち効果で押さえ込んでしまえる。コーナー部分の浮き上がりを押さえられるんです。だから梁はできるだけ継がないで一本物でいくべきなんです。上からの重量方向の支持能力という点でも渡り腮は効果的だと思うんです。もうひとつ、地震で揺れても柱が梁を上に載せている関係上、支持能力が十分あり変形についていけるということもわかります。
丹呉:この写真ではすべての接点が渡り腮で組まれ、柱の上下ともに込み栓打ちがされていることがわかります。束の上下も込み栓打ちです。柱のホゾと同寸の27×120mmの「つなぎ材」というを、引き抜きへの対策として上段梁と土台とをつなぐかたちで入れています。これが外れなければ渡り腮ははずれることはない。これで弱点はカバーできていると思います。大工塾の大工さんの中には、渡り腮の仕口そのものを人形束という十字の込み栓で固定してしまおうという案を出す人もいますね。現在では軸組図を書いた時点でつなぎ材の本数を数えています。壁のつくり方ですが、東京近辺では竹小舞を編める人がなかなかいないということもあり、大工さんだけでつくれる土壁を工夫してみました。4分(12mm)×1寸(30mm)の板の木小舞を打ち付けてつくります。これなら実大実験でも竹小舞の壁と比べても耐力的に遜色ありません。 「込み栓は堅木」というのが常識で樫等が使われていたんですが、柱や梁が杉なので樫は使いません。今は楢の既製品です。あまりいい材質ではないのですが、逆にこの程度の強度のものがいいようです。φ6分(18mm)の丸栓です。
山辺:なぜ楢材なのか。込み栓をあまりに硬い木でつくってしまいますと、引っ張りによって部材が繊維方向に裂けてくる「割り裂き」という現象が起きやすくなるからです。この現象はまだまだ構造的には定量化できないやっかいなことなんで気になります。だから、込み栓が壊れてくれた方がいいという意味で、楢材程度のものを使うわけです。
丹呉:事務所の仕様としては、梁は一番小さいものでも6寸(180mm)にしています。それはホゾのためなんです。梁には上からも下からも柱の長ホゾが刺さってきます。長ホゾは、うちでは最低3寸と決めていて、その真ん中の1寸5分のところで穴を開けて込み栓を打つのです。つまり長ホゾが3寸×2で6寸なければ納まらないわけです。 こういう仕口をきちんと計算する……山辺さんと付き合っているとどんどん値段が上がっていくんですよ(笑)。だからデザイン面ではあまりこだわらないようにしています。込み栓だって、本当は角の込み栓が格好いいんだけれど、丸栓の方が作業性がいいので私は丸でやっています。
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【※9 壁倍率】 構造設計キーワード(モクゾウドットコム)に図解あり。
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接合部の弱さをどう克服するか 山辺:これまで話してきた渡り腮構法でなく、いわゆる民家型構法の場合は2間(3640mm)間隔で通し柱を使う関係上、梁材自体は4m材を使うことができるので、ある程度規格化できるというメリットがあるんですが、柱と梁の仕口を考えなければなりません。もし伝統構法にこだわるのであればほとんど金物を使いませんから、雇いプレート(板)を入れて込み栓で締めていくことになると思います。この違いをふまえて渡り腮構法と民家型構法を比較して見てみるとおもしろいと思います(資料参照)。 先程もいいましたが、渡り腮の場合上からくる荷重に対しての強度は150×120の断面で554L、蟻落しの場合は132Lまでしか耐えられません。大入れで腰かけがある場合(12頁図5)はその腰かけの部分がめり込んで持たせますがそれでも396Lしかもちません。このあたりを良く理解して計画しなければなりません。例えば蟻落しで小梁をかけている部分にピアノ等の200Lそこそこある物を乗せてしまうと、132Lしか持たないのですから偏って力をかけてしまうと危ない訳です。このあたりを意識しながら使っていく必要があると思い、それぞれの仕口の耐力比較表を作ってみました。 その実験をやってみたのですが、先程の大入れ型のもの、蟻落しの継手をプレカットで作ってみて、梁を3m飛ばし荷重をかけてみたのです。そうすると荷重をかけてまもなく支持点が約24mm落ちます。この断面について曲げの応力(強さ)・たわみ(変形)・剪断応力【※10】について構造計算したところ、曲げ応力は約900Lとでました。ところが実験ではその半分程度の荷重で、仕口の部分か降伏し落ちました。僕らは構造計算をして梁の断面を決めますよね。ところが計算の半分以下の数値で端部が落ちてしまうわけです。つまりどういうことかというと、やはりある程度のスパンを飛ばす梁については、その支持点がネックだなと思わなければならないのです。これはプレカット業者の方々も含めて検討していかなければならない事です。短いスパンのところはどうってことないのでしょうけど、やはり大きく飛ばす場合は大入れの腰かけの部分を多目にとるとか、そういった工夫が必要だなと感じますね。 |
【※10 曲げ応力 たわみ 剪断応力】 曲げ応力:外部荷重によるはりの湾曲によって内部に生ずる長さ方向の引張り、または 圧縮応力。 たわみ:梁等に垂直荷重を与えたときの荷重方向の変位量。巻末資料参照。 剪断応力:ずれに伴い、材料の横断面に、互いに平行で向きが逆に生ずる応力。 |
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