神楽坂建築塾 第二期 第13回講義録テキスト
◎木造架構の可能性を探る
吉田桂二氏

(工学博士。一級建築士。全国町並み保存連盟顧問。日本ナショナルトラスト保存活用委員。飯田市大平宿再生協議会理事、生活文化同人代表、上中町熊川宿重要伝統的建造物群保存地区審議会委員。1987年、第1回福井県まちなみ景観賞。1991年、吉田五十八賞受賞。1992年、日本建築学会賞、茨城県・町づくりブルーリボン賞(古河市まくらがの郷)及び自治大臣賞(古河市まちづくり)。1995年、古河歴史博物館が第5回公共建築賞等。

第一期に続き、今年も吉田桂二さんにお話いただきました。今回は特に、大規模な公共建造物を木造で、それも集成材や輸入材に頼らずに国産材で建てる試みを、豊富なスライドとともに紹介していただきました。含水率・構造力学など専門的な話題も出ましたが、林業の再生をも視野に入れた「木造の復権」のメッセージは、受講生の心に強く残ったようでした。


木造で大空間をつくる困難さ

 

吉田桂二です。

最近は、住宅より大きい公共建築を木造でつくることが多くなりました。私がまちづくりに関わっていることろでは特にそうしています。

公共建築といえばこれまでは鉄筋コンクリートや鉄骨造が主流だったが、最近になって木造見直しの気運が高まってきたことがあります。特に材木の産地に近いところ、例えば九州の小国町などでは、地場産の杉材を使った建て方が求められたりもしました。

木造で公共建築をつくる――その時は住宅を建てるのとは違う困難に、次々とぶつかることになるんです。住宅の架構では、梁間は普通2間(けん=3640mm)、広くても2間半(=4550mm)どまりですね。それ以上の幅の部屋はなかなかないです。ところが公共建築では4間(=7280mm)飛び、或いはそれ以上も当たり前となる。それだけのスパンに屋根を架けるのに自然木では確かに難しいです、だが不可能ではない。

日本の国産材を見渡すと、杉・檜は割とたくさんあるのだが、梁によく使う松が少なくなっています。

松がないから、「杉を使ってもできるんじゃないの?」ということで、最近は杉の丸太を梁に使うことも増えています。住宅では特にそうです。磨き丸太で使いますね。別に数寄屋を狙ってるわけじゃないんです。それは角物に削ると断面積が細くなるし、同心円のままで使う方がやはり強いからです。でもそれでも限度がある。それ以上となるとベイマツが、輸入材が採用されてしまう。

 

国産材を使いたい

 

でも私は輸入材は使いたくないんです。全く使わない、と言いたいがそうもいかない、それは日常的に経験している方はよくわかっていらっしゃると思いますが、輸入材はできるだけ使わないようにしています。私は国産材でいきたいというこだわりを持っているんです。

しかし杉で太いものには限界があります。もしスパン4間を和小屋のシンプルビームにすると、重量も成(せい)もたいへんなものになってしまう。大きくなると当然構造的にも問題が生じます。だから、屋根架構で剛性を確保しなければならなくなる。軸組の方へは負担をかけられないものです。屋根と桁との接合部はピン接合であっては困る。剛接でないとだめです。そう考えてくると、国産材にこだわるなら材は太いものではなく、架構を工夫して、細いもの、短いものを使って架構することを考えなければならない。そうでなければ集成材になってしまいます。これは簡単。設計も何も必要ないです。カタログから選んで造れちゃう。集成材は、木材をプラスチックで固めたようなもので、使ってみればわかりますが、本来の木の組成は失われている。鉄骨と同じようなものではないか。

また金物を多用して架構している建築家もいるが、これは木を木として使っているとは言えない。小国ドームも巨大な木造で有名になりましたが、接合部が金物でできている。これでは材木は鉄骨だったとしても同じことではないか。

 

国産材・伝統工法へのこだわり

 

私がこだわるのは、木造というからには、伝統工法で組んでいくべきだ、ということです。そのためにはどうしていくべきか、です。

伝統工法とは、簡単に言ってしまうと、木を刻み、木と木を組みあわせること、そのままでは抜けるので接合部には込み栓やクサビを差して抜けなくする。これが基本です。これを大型架構でできないかな、と組んでみます。

ただ組んだだけでは外れる心配がある、その場合にはボルトだけは使うことにしよう。ボルトだけは「許します」。そしてそのボルトも隠さずに見せてしまう。ひところはこのボルトという奴が嫌いで、穴を彫って埋めてみたりいろいろがんばったのだが、これは大変なことなので、そんなことはもうしなくなりました。

というのは、現代の材木は湿っている(乾燥度が低い)ものが多いので、建ててから時間が経つと材木が「痩せて」くる。すると当然接合部がゆるくなってくる。露出したボルトであれば、しばらくして再びボルトを締め直すことができるからです。

 

建築法規との格闘

 

では、スライドを見てみましょう。

最初は■小国老人保健センター(熊本県小国町)。老人保健施設というのは、社会復帰のための施設ですから、入所し具合が良くなればまた帰宅することを想定しています。ほとんど平屋で、わずかな二階部分には健常者のスペース、喫茶室などがあります。一階から二階床までを鉄筋コンクリート(RC)造にし、その上に木造の構造を載せる形です。これは最近の私の常套手段です。

面積は3000平米位ですから、小さな町といった規模です。なぜ3000平米かというと、建築法規の関係で、3000平米を超えると木造の基準が非常に厳しくなります。ここはそれ以下だったわけですが、それでも規制はいろいろありました。

木材を露出させる場合は「もえしろ」、つまり、火がついて表面から炭化しても大丈夫な厚みを確保する必要があったり、防火のために木材を更に木で包んだり、まあ言ってみれば法規との格闘のような仕事です。構造計算についても、計算書をつけろという。集成材ならば規格化されていて数字がでるけれども、自然木、しかも杉ですからね。小国町は杉の産地ですから町有林の杉を伐採し、500本の検体をつくり、それを筑波の試験所に送って試験をした。検体は、尾根の上、北側斜面の上の方、下の方、沢筋、南斜面からサンプリングをし、力学的なチェックをしたんです。その膨大な資料をまとめてつけます、と言ったら町も「結構です」と言った(笑) 。そのデータを読んでみると、杉という奴は、一本ずつ、目(年輪)のつまり方からずいぶん違う、強度的にはすごい幅があることがわかりました。

ほとんど平屋ですから屋根型が難しかった。例えば病室にしても幅が広くできない。採光の問題もあって、一部屋の幅が制限されるから中庭がたくさんできる。こまやかな空間がたくさんできる。これは木造のメリットでしょうね。条件のいい部屋がたくさんできるのですから。

屋根伏図を見ると複雑なようですが、下りの谷はあっても水平の谷は一本もありません。瓦で葺いてありますが普通の瓦ではなく平瓦です。それも単色では面白くないので3種の違った瓦を混ぜ葺きにしてあります。

 

■若狭・鯖街道の熊川宿の「道の駅」(福井県上中町)です。

私も街並み保存に関わった熊川宿の入り口に位置しています。ムシコ窓風の窓は採光用ですが、塗屋造りの雰囲気を狙ったものですね。

ここでは、古くからある丸窓の意匠を蔵造りの資料展示室に取り入れていますし、屋根の上の両端には立浪(タツナミ)とよばれる瓦の飾りを載せています。雪国だから軒先の樋を止める金具は尺五寸(455mm)ピッチに入れなければなりません。屋根架構の接合部の写真を見るとわかりますが、せん断力が働く箇所には一本の木材の両わきに二丁合せで補強しています。

 

■つくば合同会計ビル(茨城県つくば市)

これは、普通少人数で仕事をしている会計士の人たちが集まって共同で仕事をするためのビルと、そのオーナーのための住宅の2棟の建物です。集まって仕事をするのは、設備機器の共同使用や国際的な発信などのメリットがあるからですね。

オフィスの空間は普通ゴロッとした大きな矩形となるものです。でも短辺が9間(16.38m)ものスパンを木造で架構しようとしたら、とんでもなく棟が高くなってしまう。そこで四周に四本の棟がグルリと廻るような屋根にして中央に中庭を設けました。中庭なしでは水仕舞ができないからです。内部からは中庭があることでの違和感はほとんどありません。会長室と事務室とでは屋根架構の木材の組み方自体は同じですが、天井板の張り方を変えて間接照明や空調ダクトの納め方を変えています。印象はずいぶん違ってきます。

 

■古河文学館(茨城県古河市)では、文学館だけでは人が集まらないだろう、ということで二階にイタリア料理店をつくりました。傍らに並んでいるコミュニティセンターや歴史博物館とはイメージがまるで違いますが、私はそれでいいと思う。一つの町をおんなじデザインで統一しなければならないなんておかしいと思いますよ。煙突は本物の暖炉のものです。

ここでも、一階(および二階床まで)部分はRC造で、その上からが木造で建てました。それは、木造の場合、床の剛性がとても大切だからですね。

 

杉丸太によるドーム架構

 

最後は■長浜・鉄道文化館(滋賀県長浜市)です。日本最古の駅舎がこの長浜にあります。新橋〜品川間に汽車が走った時代に、日本海側の敦賀からトンネルを掘って長浜まで鉄道が引かれていたんです。それで長浜はターミナル駅だった。ここを終着駅とし、ここからは船に乗り換えて琵琶湖上を大津へ、宇治川を辿って伏見へ、そして高瀬舟で京都までも行けたんです。

この建物のモチーフはヨーロッパのターミナル駅です。あちらの駅の鉄骨のアーチの上屋の端部は、カマボコのようになっていてそこに大きなガラスが嵌まっていて光が入ってきますね。そのイメージにしたくてアーチにしたのです。

主屋根のドームを、φ150×3mの杉丸太をずらしながら組んでいきました。つまり全長9尺の柱を3尺ずつで区切って角度をつけて組んでいきます。これで梁行8間(=14.56m)、桁行き10間(=18.20m)を無柱で架構することができました。富山の杉を削った丸太のまま、無塗装で使っています。丸太は強い、同心円のままで使いたいと思いますね。

大きなドームにしたため、開きの力が強く働いてしまうので、RCの躯体とバットレスの上に載せるんですが、ドームの下端に水平梁が入ります。そこがちょうど棚になりますから、ここを一周する鉄道模型を走らせよう、ということになりました。背景の絵は琵琶湖一周の風景にしよう、とボランティアがみんなで描きました。鉄道模型というものは、上から見下ろしちゃいけないそうです。地面の高さから水平に見なくちゃならん、それが礼儀なのだそうです(笑)。その意味からこの「線路」は最適です。この模型を「琵琶湖周航ライン」と名づけ、長浜市長は「これを現実の線路で走らせよう」と言っています。この間の10月14日の鉄道記念日に開館したばかりのできたての建物です。

柱に腰(の膨らみ)を付けてペンキを塗ったり、湾曲した方杖を付けています。駅のイメージに近づけたかったからです。なお、方杖は集成材ではありません。無垢の板を削り出したものですね。


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