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私は、前年の終了制作において「建築解体学のすすめ」と題し、今後人口・経済の縮小に伴い多量に発生する余剰建築物の円滑な解体を進めるスキーム開発の必要性を提案した。 本稿では集合住宅の解体に関し考察を進め、「集合住宅の再生」について論じたいと思う。 |
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はじめに |
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30年後の社会をイメージしたい。 その参考として、まず以下の二つの統計データを確認する。 ------------------------------------------- <国立社会保障・人口問題研究所の推計より> 日本の人口は来年2006年に1億2,774万人でピークに達した後、以後長期の人口減少過程に入り、2050年にはおよそ1億60万人まで減少する(中位推計の場合。高位推計では1億825万人、低位推計では9,203万人)。50年近くかけて人口は2割減少する。 また、地方の人口減少が都市と比較して大きく、自治体別に2030年の人口予測を2000年と比べると、9割近くの自治体で人口が減少し、なかでも半数以上が2割以上減少する。更に4割以上減少する自治体も17%ある。 <総務省 平成15年住宅・土地統計調査より> 平成15年10月1日における全国の総住宅数は5387万戸、総世帯数は4722万世帯と、差し引き664万戸の住宅が余剰になっており、空室率は12.2%となっている。また、余剰住宅数は増加傾向にある。(平成10年からの5年間で76万戸の増加) 住宅全体の56.5%が一戸建である一方で、共同住宅は40.0%を占めており、半数近くが集合住宅となってきている。 また、平成10年からの増加率を見ると一戸建の4.8%増に対し,共同住宅は12.8%増となっており、共同住宅の増加が著しく、今後も集合住宅の全住宅に占める割合が増加する事が予想される。 ------------------------------------------- 上記のデータから予測すると、30年後の街には空家が溢れているはずである。そして適切に管理されずに廃墟と化し、近隣の安全を脅かし、景観を害し街並を損なう建物も放置されているかもしれない。 (その解体の必要性などについては、前期の終了制作を参照のこと。) その数ある空家でも特に深刻な問題となるのが「分譲集合住宅」であると考える。 本稿では、分譲集合住宅の再生の手法について検討していきたい。 |
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2.ケーススタディ <今年マンションを購入したA・B氏の30年後> と問題点の提示 |
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-- なぜ、集合分譲住宅の空家が特に深刻な問題を生じさせるのか --- ここで、ケーススタディとして、東京郊外のマンションを購入したふたりのシナリオを提示したい。 <A氏の場合> A氏は現在35才。2年前に結婚し子供も産まれたためマンションを購入。東京から電車で30分。駅から徒歩15分と通勤圏にありながら、80平米3LDKで2980万円とバブル時の半値近い価格であった。 メ30年後モ、A氏は65才となり退職。夫婦と息子(30才)と仲良く暮らしているものの、マンションのことが悩みの種である。 A氏のマンションが安かったのには理由があった。本来は住宅には適さない立地にあり、交通騒音、工場臭気などの難があったのだ。A氏はその悪環境についてはそれほど気にせずに過ごしてきたが、築5年を過ぎた頃から退去する人が目立ち始めた。二重サッシを閉め切りにする生活に耐えきれなくなったのである。そして一部は転売されずに賃貸された。 そして築30年の現在、100世帯のうち当初から住み続けているのはわずか20世帯。中古での購入世帯で現在住んでいるのが10世帯、賃貸が15世帯で、後の55戸は空家となっている。(空室率55%) まだ十分に住めるにもかかわらず空家にしておくのはもったいないものの、人口が減った今、環境・設備ともに劣る物件には借り手がない。 そして喫緊の問題は管理費等の不足である。空家の所有者は「家賃収入も入らないのに」と滞納し、また管理費に充当していた駐車場代金が駐車場に空きが多く出ているために減少したのである。 また修繕積立金も当初の設定金額が低過ぎたにもかかわらず値上げについて住民の理解が得られなかったため、十分な積み立てができず対処的な工事を行っただけでほとんど使い切ってしまい、ほとんど残高が無い状態である。 共用部分の経費の支払いにも窮し、また必要な修繕を行いたくても実施する見込みは全くたっていない。 A氏としては(また当初から住み続けている20世帯は)転居する経済的余裕はなく、是非とも住み続けたいと考えているが、将来への展望が見えず不安の毎日である。 <B氏の場合> B氏は現在40才。独身だが家賃の支払いを続けている事に疑問を感じ、A氏と同じマンションの2LDK 60平米を2200万円で購入した。 しかし、入居後交通騒音などに悩まされ、また通勤にも不便なので5年目には都内のワンルームマンションへ引越した。その際、マンションは賃貸としその収入でローンの支払いに充てる事とした。 20年目、家賃を滞納した賃貸人を裁判までしてようやく追い出したB氏は、マンションを再び人に貸す事を断念した。(もし貸そうとしても周辺環境の悪い築20年のマンションに良い借り手がつくとも思えなかった。)そして管理費等を滞納するようになった。 そして築30年後の現在、70才になったB氏はマンションを持て余している。修繕の見通しが立たないためスラム化が懸念されるマンションに買い手はつかない一方で、管理費等の督促が毎月のように届くからだ。 <問題点の整理> 上記シナリオから次のような問題点が指摘される。 ・ 本来、住居として不適切な建築物でも、低価格への根強いニーズから建設・販売されてしまう。 ・ このような物件は、人口減少・建築余剰時代では「負け組」となり、市場における資産価値が大幅に減価する。 ¬ 「二極化」ということが社会の多方面でいわれるようになったが、不動産価格においてはそれが顕著である。市場が拡大しているうちは、本来は住宅として不適な物件でも供給され、また買い手も現れるのだが、市場が縮小し始めると不適な物件の市場価格は崩落しやすくなると推測される。 以上2点の問題点は、一戸建てにおいても生じる問題点である。 仮にA・B氏の購入したものが一戸建てであれば、本人が環境の悪さを受容し、また住居の売却を意図しなければ、特段の問題は生じない。本人に住み続ける意思さえあればそれを阻む障害はないのだ。 しかしながら、集合住宅であったがために、次の大きな問題が生じてしまう。 ・ 管理費等の滞納により、建物の維持管理に支障が生じ、居住自体が困難となる恐れがある。 ¬ 共有部分の電気代等の支払いができずに共用灯、エレベータの使用ができなくなったり、水道等の共有設備の修繕ができないと水道の利用すらできなくなる場合もありうる。 ¬ 上記に至らない時点においても、滞納者等に対する支払い請求等により多大な手間等が生じるとともに、居住者間の正常なコミュニティーが破壊される。 ・ 上記の問題が生じたり、生じる事が懸念される状態になると、建物のスラム化への恐れから、マンションの転売が著しく困難となり、市場的には無価値ないしはマイナスの資産となってしまう。 ¬ 適切な修繕により利用可能な建物であったとしても、管理・修繕は区分所有者の共同作業であるため、その共同作業ができなければスラム化が避けられない。 分譲集合住宅においては上記のような独自の問題点があり、またこれは既存のスキームでは解決が難しいと考えられる。
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3.-対応策の検討 ---分譲集合住宅再生法---- |
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(1)概要 管理費等を滞納していない区分所有者が、このままでは建物の安全性や正常な生活機能が維持できないと判断した場合に、新たに設置される「分譲集合住宅再生委員会」に再生手続きの決定を申し立てる。 委員会が申立てを認めた場合には再生計画を開始される。 まず委員会は当該集合住宅にかかる「管理財団」を設立する。これは建築家・行政・区分所有者の代表から構成される理事会で運営される。「管理財団」は集合住宅に必要な管理・修繕費等を算定し、区分所有者全員に提示する。 これに賛成し支払いを行う区分所有者は管理財団の出資者となる。また同時に住居の所有権は財団に帰属し出資者は財団から住居にかかる占有権を与えられる。(つまり反対する区分所有者は住居からの退去を迫られる。) 財団は反対者分について、新たな出資者を募集する。 そして出資者が決定した後、修繕等を実施し、建物の集合住宅としての機能を再生する。 (2)具体的なスキーム 1.分譲集合住宅再生委員会(以下「委員会」という。)の設置 都道府県単位で設置。委員長は行政から任命するがその他法律家、建築家等から委員を構成する。なお、各委員会の上位に委員会連合会を設置し、申立人からの異議の申立て及び判定基準の適正化・標準化作業を行わせる。 2.申立て 2-1.申立人の地位 分譲集合住宅の区分所有権を所有しかつ管理費、修繕積立金の支払い等管理規約に定める義務を履行しているもの。 2-2.申立ての内容 分譲集合計画の再生計画の開始決定、立案、実施等 2-3.申立先 物件の所在する都道府県を管轄する委員会 3.再生計画の開始決定の条件 当該集合住宅が、現在既に通常の管理を維持できない状態にあるか、もしくは修繕を行わないと建築物としての安全性と機能を維持できないと見込まれないと判断された場合であり、 かつ管理組合の自由な討議においてはそのような再生のための決議が行われないと見込まれる場合。 *本再生計画は区分所有者に修繕費等の支払いを強制するもの(支払わない場合は退去しなくてはならない)であることから、最後の手段として慎重に開始決定される必要がある。 *本再生計画の運用が慎重で実際の適用例が少なくなったとしても、その効果が小さいとは言えない。本制度が存在する事によって、集合住宅の管理運営に非協力的な区分所有者に対し、「協力しなければ所有権を失う事もあり得る」との緊張感を生じさせ、管理運営への協力を即す効果があると見込まれる。 4.再生計画の開始 管理財団の設立 再生計画の開始が決定されると、まず当該集合住宅にかかる「管理財団」が設立される。財団は委員会が指定する建築家・行政・区分所有者の代表(申立人他)から構成される理事会で運営される。なお、実際の運営においては、委員会から指定される委員が専門家として積極的に役割を果たす事が期待される。 また、集合住宅の所有権(各戸の区分所有権を含む)が管理財団に移転する。 *理事となる建築家、行政担当者の報酬等は公費で賄うものとする。 *集合住宅の再生は区分所有者のためだけではなく、街全体の問題であるとの認識から、公費負担を容認する。 *財団へ所有権を移転し、また委員会から派遣された委員が財団の運営に関わる事で再生計画の確実な実施を担保する。 *区分所有者間の話合いによる管理・修繕等ができなかった事情を考慮すれば、このようなスキームが必要となると考えられる。 5. 再生計画の策定 「管理財団」は集合住宅に必要な管理・修繕費等を算定し、区分所有者全員に提示する。 *再生計画は建築家・行政が中心となり、客観的な基準に基づき策定する。 *今後30年程度の利用が可能となる事を前提として、一時的な修繕計画(費用)と長期的な修繕計画(費用)を策定するとともに、日々の管理内容、管理費の算定を行う。 <再生計画の一例> ・一時的な修繕費:2億円(1世帯平均200万円) ・ 長期的な修繕積立金:1世帯平均月額1万円 ・ 管理費:同月額1万円 5-1.再生計画の非成立 上記の修繕費があらかじめ定めた基準額を超過するような場合は、再生計画を立案せず解体を勧告する。 *例えば、震災等により大規模な修繕が必要と判断されたような場合が想定される。 *建物の老朽化が激しい場合は、解体が必要である事もあり得る。 6.再生計画の区分所有者への提示・成立の可否 管理財団は、再生計画を全ての区分所有者に提示する。区分所有者は3ヶ月以内にその諾否を財団に回答する。 賛成が2分の1以上であった場合には再生計画が成立し、賛成した区分所有者は計画に従って費用を負担する義務を負い、これに伴い財団の出資者となり、財団を通じて集合住宅の所有権を得る事となる。また所有していた区分にかかる占有権も財団から与えられる。 一方で、反対した区分所有者は出資者となる事ができず、占有権も与えられないため1年の猶予後住居を退去しなくてはならない。 *賛成が足りず再生計画が実施できない場合、財団は解散する。その集合住宅は更なるスラム化が進行する事となるものの、本スキームが反対者から権利を奪うというものであることから、一定数以上の賛成者の無い場合は実施すべきでないと考えられる。この点が本スキームの限界である。 *資金的な理由で賛成できない者もあることに配慮し、特別の融資制度を導入する。 7.出資者の募集 再生計画が成立した場合、反対した区分所有者に代わる出資者を募集する。 *修繕費を支払うのみで、今後30年の居住が担保された住居の占有権と管理権を得る事ができるため、募集は容易であると見込まれる。 *行政が出資者として募集する事も想定される。行政としては、街の環境を守るとともに、低廉な公共住宅を確保できるという利点があると考えられる。 *それでも出資者が足りない場合は、委員会が出資者となることとする。 8.再生計画の実施 出資金を利用して修繕工事を実施し、その後の管理も財団を中心として実施する。
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4.ケーススタディ <A・B氏のマンションの場合> 再生計画の実施 |
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A氏は入居当時からの仲間と相談し、委員会への申立てを行った。委員会からは「まずは住民間での自主的な解決が第一ですよ」と言われ、管理組合での努力を促されたものの、これまでの管理組合の努力とその結果を説明し、理解された。 修繕については当面は大きな問題は生じ得ないとされたものの、管理については通常の管理ができない状態だと認められた。 再生計画が開始決定され財団が設立されるとA氏は理事になった。ただ、再生計画のほとんどが委員会から派遣された委員の方が建築家の意見を参考にしながら決定した。そしてできた計画は次の通りである。 ・一時的な修繕費:1000万円(1世帯平均10万円) ・ 長期的な修繕積立金:1世帯平均月額1万5000円 ・ 管理費:同月額1万円 A氏としては全く異論のない、また負担感のないものであった。そして同時になんでこんな当たり前のことすら住民の話合いで実現できなかったのだろうと不思議に感じた。 再生計画は空家の所有者を含む全所有者に提示された。そして全員の賛成を得られた。 1年後、管理が行き届くようになったため、B氏はマンションを売却する事にした。不動産屋も「これならばすぐに買い手を見つけますよ」と言ってくれた。 滞納した管理費と修繕一時金を支払って出費もあったが、売却すればまとまったお金が手許に残りそうである。
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5.対応策---分譲集合住宅再生法----の意義・留意点 |
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本対応案の実施・普及により、次のようなメリットが生じると期待される。 ・ 分譲集合住宅のスラム化の防止 ・ 管理費等の滞納問題の減少と管理の円滑・健全化 ¬ 上記の効果としての転売が容易となるとともに、その価格も上昇する。 ¬ 住民間のコミュニティも正常化すると期待される。 ・ 古い集合住宅が活用され、安価な住宅として提供されること(つまり長年の住宅ストックを有効に活用する事により)社会全体における住宅コストが低減する。 ¬ 今後、低成長が見込まれる社会ではあるが、これまでの住宅ストックを活用する事で住むコストを下げる事ができれば、生活の豊かさを維持する事がある程度可能となるのではないか。 ¬ 古い住宅が再生され、安価に提供される事により住宅の新築数は減少する事となる。 ¬ 再生計画への反対者に代わる出資者として行政が出資すれば、安価な公共住宅とすることができる。 頁はじめに戻る |
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6. 最後に |
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「古いものを大事に活用し、むやみに新しい物を作らない事。」 この考え方はどのような社会・経済状況においても是だと思われるが、これからの日本社会においては特に大切な考え方である。 少子・高齢化の進展を伴う人口減少社会において、新しい建物を作る事は同数以上の古い建物をゴミにすることであるが、縮小する経済の中で使える建物をゴミにするゆとりは無いと思われる。 一方で、これまで積み重ねてきた建築資産を有効に活用する事により、社会全体に経済的ゆとりを創出する事ができると期待される。 古い物を大事にする心を育て、古い物を再生し安価で提供する事により、新しい建築を抑制し、物質的にも、精神的にも豊かな社会が実現できればと思う。 以 上 |
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