神楽坂建築塾 第六期 修了制作

日本の住宅とアルミサッシ

神楽坂建築塾塾生 河合隆一

目次

1.日本のアルミサッシ概観

2.窓あるいは木造建築への思い

3.住宅性能確保の重要性

4.サッシ設計の現場


1.日本のアルミサッシ概観


 皆さんは窓のない住宅の実例をどれくらいご存知でしょうか。広瀬鎌二の「スチールハウス」や川合健二の「ドラムカンの家」の窓は、安藤忠雄の「住吉の長屋」はどうだったかな、と思いめぐらせる方がおられるくらいではないでしょうか。法的にも窓のまったくない住宅は許されず、外観に窓のない住宅は想像も難しいのではないでしょうか。家に窓はつきもの。そして窓は住宅外観や街並み景観のイメージ形成の大きな要素となり、その配置や形、大きさのほか、開閉形式や窓枠の色など、設計に際し工夫やアイデアを盛り込める部分でもあります。また住宅性能の上では、開口部はひとつの弱点であり、断熱、気密、日射の遮蔽、結露の防止といった温熱環境や外壁の遮音性能などは、開口部をどのようにするか、言い換えるとどのようなサッシを使うかによって決まってしまう、と言っても過言ではないでしょう。現在私の勤務する会社では、基本的性能を持ったベーシックな製品以外に、さらに高い性能を持った規格製品も幅広く用意しており、形や開閉機能以外の性能面でも多くの選択肢を用意し、工業製品として品質を管理し価格を抑え、日本国内はもちろん海外市場への納入態勢も整えています。
 住宅の窓がアルミサッシで作られるようになったのは昭和40年頃からで、高度経済成長と軌を一にしてあっという間に日本中の窓がアルミサッシになりました。米国では住宅にアルミで作った窓はあまりないと聞きますし、ヨーロッパでもアルミだけの窓は少ないらしい。なぜ日本だけがアルミの窓だらけになってしまったのでしょうか。他にも選択肢はあったはずなのに、理由はよく分かりません。何か一つの流れができると、皆が同じ方向に走り出してしまう、そんな国民性なのでしょうか。
 日本の住宅サッシのルーツは木製の建具で、開閉形式は引き戸(スライディング)形式でした。ビル用サッシでは、スチール製のサッシにガラスをパテでとめるという方式が、アルミ以前にありました。材料が木からアルミになっても、住宅では木製建具の遺伝子は引き継がれ、上下框と縦框の接合は木製建具と同じいわゆる印篭方式で、縦框の見込み内に上下框が呑み込まれる形になっています。この接合形式は強固であるばかりでなく、中空のアルミニウム形材(*1)同士を組み合わせても、中空の小口を見せずに隙間も作らず接合することができる、まことにすぐれものの接合形式なのです。下框は引き戸であれ掃き出し窓であれ、床レベルにあることが多いため、幅木の役目も兼ねて他の框より大きな見付となっています。これが戸車を納めるにも都合が良く、いまだに引き違い窓や引き戸の下框は他の框と比べて大き目の見付けになっています。これがヨーロッパの窓になると、開閉形式も開き戸(スウィング)形式が中心となり、日本の掃き出し窓のように窓であり出入り口であるような存在はなく、人が出入りするドアと窓は明確に分けられ、窓の四方の框も縦横でサイズを変えるような面倒なことはせず、同じ大きさの部材をトメ接合で組んであるものが多いように思います。
 かつての木製建具の血が騒いだのか、アルミニウム形材の表面処理(*2)を工夫して、木目調のアルマイトなどというのが、業界の中だけかも知れませんが、もてはやされたことがありました。アルマイトをすることにより木目のような模様が表面にできる技術ですが、どう見ても木のようには見えず、まがい物感は払拭できずに、多額の開発費をかけた木目調アルマイトは数年で消えていきましたが、これも木製建具をルーツとする日本のサッシの歴史的宿命のようなものだったのかも知れません。
 住宅の窓はアルミサッシだらけになりましたが、玄関で履き物を脱いで家に上がるスタイルはなくなっていませんし、あまりにも露骨なまがい物は受け入れられなかったことなど、物は変わっても様式は変えないとか、代用品が出てきてもその気にさせるものでなければ受け入れなかったりといったことに、日本人の持つ健全な感性を感じます。

(*1)アルミニウム形材:アルミサッシの部材は熱間押出しという加工方法で作られます。原材料はアルミニウムとマグネシウムとシリコンを主構成材とする合金で、押出し性が良く、熱処理により窓にちょうど良い強度の出る材料です。さらに着色アルマイトも可能な、建材にはうってつけの材料です。一般にアルミ押出し形材もしくは単にアルミ形材と呼ばれています。
(*2)アルミニウム形材の表面処理:いわゆるアルマイトと呼ばれる、陽極酸化皮膜+電着樹脂塗膜の組み合わせが住宅用サッシでは一般的ですが、アクリルやフッ素の焼き付け塗装はビル外装のパネルなどに多く使われ、最近では光触媒を使った汚れを寄せ付けない塗装も行われるようになってきました。

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2.窓あるいは木造建築への思い


◆1995年
 この年の1月17日、阪神淡路の大震災があり、多くの人命が失われました。私もこの直後、アルミカーテンウォールの開発者として数日間にわたり現地調査に入ることになりました。

◇木造以外の建物の被害
 私の調査対象は中層から超高層までのビルになるわけですが、倒壊したり躯体に修復不能な大きな損傷を受けたりしてしまっているビルについては、建物が壊れてしまっているわけですから、サッシ屋あるいはカーテンウォール屋としては調査のしようがなく、ただ観察するだけになります。倒壊したり大きな損傷を受けたビルを見てみると、その壊れ方は教科書的というか、技術的な予想の範囲内のものが多く、RC造やS造についてはそれだけ研究も進んでおり知識も一般化しているものと思われました。
 中層以上のビルで躯体はほぼ健全なのに開口部がダメージを受けている例は少なく、特にアルミカーテンウォールについては全面ガラスの建物も多いのですが、心配されたガラスが破損して周囲にガラスの雨を降らせるといった事例は見られず、ガラスの周囲のシーリング材も健全なままの建物がほとんどでした。そのような建物は建物そのものが比較的新しいということもあるでしょうが、カーテンウォールに関して言えばすべての製品で耐震性・耐風圧性・水密性などの実大実証実験を実施し、改良や手直しを加えながら実施に移してきた手法の正しさが改めて裏付けられた気がしました。その一方でカーテンウォール形式ではない一般窓では、躯体の損傷も目立つものの再使用も可能と思われる建物で、開口部のガラスがほとんど破損してしまっている事例が多く見られました。それは築年数の比較的古いRC造ビルの特に横連窓に多く、RC造は地震時の層間変形角があまり大きくならないように思われますが、それでも横連窓の場合などは開口部に変形が集中するという、これも予想通りの現象が見られました。

◇木造住宅の被害
 RC造やS造のビルの被害状況に比べ、木造住宅の被害は数の上でも壊れ方においても想像をはるかに超えるものでした。見渡す限りブルーシートをかぶった家が続く風景は、初めて目の当たりにすると大変ショッキングで忘れられないものです。壁がつぶされ瓦葺の屋根だけが原形をとどめて斜めに乗っているだけの家も多く、大阪からJRの電車で大和川をわたり尼崎の街をぱっと見たとき、倒壊率100%ではないかと思ったほどの風景でした。建築後年数の経っているものも多いのでしょうが、手抜きをしたわけでもなく違法建築でもない建物が、いくら大地震とはいえこんなに簡単に壊れていいものだろうか。人の生命を守るはずの住宅によって、逆に生命を奪われるようなことがあって良いのか。私の木造住宅への興味はこの時の思いが原点になっています。
 この時は木造の知識も乏しく、多くの被災された方々がいる前で詳細の観察もできないまま帰ってきました。たかが窓が建築物の耐震性に寄与できるようにも思えず、建物が壊れる前にサッシやガラスが壊れることのないようなものにすることと、あえて加えれば、枠が変形してもドアを開け脱出できたり、変形してもきちんと施錠できて防犯上の不安を軽減できる玄関ドアやサッシを考えることくらいが、サッシ屋にできることかと思われました。

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3.住宅性能確保の重要性


 阪神淡路の大震災から5年後の2000年に、住宅の品質確保促進法、いわゆる品確法にもとづく住宅の性能表示制度がスタートしました。木造住宅を長く住み継ぐことができるようにするには、質の良い住宅を作っていかなければなりませんが、そのためのひとつの道具として住宅の性能表示は大変有効だろうと思っています。
 質の良い住宅とはまず地震や台風で壊れにくいことが第一だろうと思います。現在市場に出ているアルミや樹脂製のサッシやカーテンウォールは地震の場合、建物が壊れる前に壊れることはまずないと言って良いと思います。台風の場合でも耐風圧に適応したガラスが嵌められていれば、飛来物の衝突以外でサッシが壊れることはまずないでしょう。
 性能表示制度の評価項目にある「構造の安定」のチェックは、住宅の質を語る上で、地震で壊れない家をつくる上で、非常に重要なことだと思うのです。構造の安定等級の耐震等級2とは基準法の1.25倍の強さ、耐震等級3とは基準法の1.5倍の強さになりますが、強さ以上に壁量や耐力壁のバランス、柱頭、柱脚に発生する引き抜き力に応じた金物の配置といった基準法で求められる項目のほか、水平構面の強さ、地盤の耐力に対して基礎の構造強度が十分であること、横架材接合部の強度などを設計時点で確認し、十分であることを証明することが求められ、この基準法では要求されない、地盤・基礎構造・水平構面の確認を行うことが大変重要なのです。ですから、木造住宅を設計される方には性能表示を行わない住宅でも、地盤・基礎構造・水平構面の確認は是非行ってほしいと思っています。良い住宅を作るにはまず設計が大切です。設計時点で出せない性能は工事段階で出そうとしても絶対出ません。良い設計なくして良い住宅なしです。

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4.サッシ設計の現場


 サッシにはアルミニウムだけで作られたもののほか、アルミニウムの熱遮断型、樹脂製、樹脂とアルミニウムの複合型、木製、木とアルミニウムの複合型などがあります。アルミニウムだけで作られた製品以外は、いわゆる断熱サッシと呼ばれるものになります。また、取付躯体によってサッシ枠と躯体との取り合い部形状が異なり、木造在来構法用、ツーバイフォー用、RC用、ALC用などの専用枠があります。
 性能面では、サッシも工業製品としてJIS規格に従っており、最もベーシックな製品でも耐風圧、気密、水密の性能は、基本3性能とも呼ばれ、サッシメーカーから市場に出される前に必ず基準をクリアしていることを試験確認して送り出されます。サッシを製作する立場から言い換えると、世の中に出して良いサッシか否かの第一の関門がこの基準ということになります。
 サッシの設計に際しては、納まり、開閉形式、必要な性能、必要な機能部品など基本的な条件から既存の商品やときには建築家のスケッチなども参考に進めます。すべてが重要な項目で、内外壁の仕上げや下地材が変わったり、サイズが変わるだけで設計を変更しなければならないこともあります。
 サッシを構成する材料は、フレームを構成する主要材料として前記のアルミニウム、樹脂、木があり、ハンドルや締まり金具など目に見える部品があり、そのほかに隠れた多くの機能部品があります。機能部品はその名のとおり、サッシの命とも言うべき機能や性能を左右する大変重要なもので、金属、樹脂、ゴムなどの部品が人知れず働いています。金属はヒンジやハンドルや接合金物などとして、樹脂はキャップや摺動部品などとして、ゴムは気密材やガラス保持材などとして、その機能を発揮しています。
 図面ができると試作をし、性能試験をすることになります。見え掛りの意匠が決まっていない段階では、いきなり金型を起こす事はかなりのリスクになりますから、3DCADや樹脂の模型などでの検証を行い、発注者の承認を得ます。それから押出し金型を作り、押出し形材ができ、手作りで試作品を作るという段階になります。試作品は仮想躯体に納められ、施工性をチェックされ、可動部分のチェックなどがなされます。
 性能試験はその試作体を、水密・気密・耐風圧の3性能の試験ができる試験機に取り付け行います。いろんな窓がありますが、耐風圧性能は計算でほぼ見通しがつき、気密性能もあまり問題は起こらないのですが、水密性能は一度で狙ったとおりの性能はまず出ない性能です。意匠上の制約や部品の能力など、これまでの経験で予測はかなりつくのですが、何度やっても難しいところが出てきます。水密性能は雨漏りという、欠陥があるとすぐにクレームに直結するものですから、十分な検証を行っていますが、実際の雨漏りはサッシの中ではなく、サッシと躯体との間で起こるケースが圧倒的で、メーカーとしても取付業者への研修などを通して、サッシと躯体との間の防水措置の啓蒙に努めています。
 サッシの性能にはこのほか、断熱、防露、遮音、防火などがあり必要に応じて試験を実施して確認しています。
 カーテンウォールとなるとさらに耐震性の確認として、層間変形試験があり、層間変形試験→水密試験とか、耐風圧試験→水密試験といったダメージを受けた後の水密性能も確認しています。

 サッシやカーテンウォールは工業製品としての機能や品質確保のために、できる限りの検証をして世の中に出していますが、建物としての性能に対しては、建築パーツであるサッシでできることはごく限られたものでしかありません。住宅建設に関わるすべての人が協働して、いい家を残せよようにしたいものです。

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