|
「いちご四パックで五百円だよ!」
という声にはっとして私はふりむいた。四パック五百円ということは、一パック百二十五円?いつもは働かない頭もこういう時にはよく働く。それにしても安すぎる。私は小粒ないちご達をじっくりみつめ、安いものを買っておいしかったためしはないのだから、と思いなおして八百屋の前を通り過ぎていった。
しかしその日から毎日、いちご達は四パック五百円で売られつづけた。八百屋の前を通りすぎるたび、どうも気になってしかたがない。
ある日、そうだ、いちご酒を作ろう!という考えが浮かんだ。絵の教室の先生がよく果実酒を造っていたのを思い出したのである。あつあつの紅茶に二、三滴落とされたいちご酒はこの上ない豊かな時間をつくりだしてくれたものだ。
思いたったらはやい。材料を買い込み、さっそくいちごをつけ込んでみる。最低十日間はつけこまなければならない。三日もすると焼酎はほのかな赤みをおびてきた。五日目、いちごの色は白っぽく変り、焼酎はルビー色に輝きだす。もうこうなると味見をしたくてしかたがない。月日はどんどん流れてゆくが、いちご酒に関する時間だけは、どうもゆっくり流れているようなのである。
|