文・ゆふねなおこ

日々を歌う 45

フリーマーケット


 

 フリーマーケットにいつか出店してみたいね、と友人たちと話をしてから二年の月日が流れていた。仕事の都合や、気候のことを考えたりして、のばしのばしになってしまっていたのだ。この秋をのがしてはまた来年になってしまう、ということで、なんとか友人三人と都合を合わせて出店することとなった。当日は快晴で日差しが強く汗ばむほどの陽気となった。もともと儲けは二の次、使っていないものを持ち寄ってのお祭り気分である。

 当日、友人の車で会場に着くと、もうすでに何軒もの店が開いていた。プロの業者もまじっている。植木を売る店、靴を売る店、いわゆるばったものといわれるものを売る店、また私たちのように、友人同士楽しみで出店している若い人たちもみうけられる。私たちの右隣の店には、いかにも海千山千といった感じのプロのおじさんがいすわっていた。少しばかり出遅れてしまった私たちは、あわてて敷物を取り出し、ダンボール箱を開けた。まずは私の目玉商品であるステンドグラスのランプ。なかなか高価なもので、お気に入りの一品であるが、大きなランプを知人からいただいてからは、ずっと押入れの奥に眠っていた。さんざん考えたが、しまっておくより気に入ってくれた人に使ってもらうほうが良いだろうと思い、今回出すことにした。これは一番思いの深い品物であったから、どんな人が買ってくれるのだろうと内心どきどきしていた。ところが、そのランプを取り出したとたん、隣のプロのおじさんから声があがった。
「おねーさん、ちょっと待ってちょーだい!それ、俺が買うからしまっておいて!」
え?と思って私が変な顔をすると
「いやね、知り合いでそーいうのを前から欲しがっているのがいてね」とにやにや笑う。ははーと合点がいった。相手はプロである。きっと何倍もの値をつけて売りつけるのにちがいない。嫌な気持ちになったが、値切られたわけでもないし、断る理由もみつからない。それに、とにかくこのおじさんが私の店の初めてのお客さんにはちがいない。仕方なくランプはおとりおきということになってしまった。

 気をとりなおして、おじさんの目にとまらないような小物から店頭に並べることにした。ぱらぱらと品物を並べ始めると、いつのまにか大勢のお客さんが集まってきて、まだ何の用意もととのわないうちに「これはいくらだ」「これはどう使うんだ」と矢継ぎ早な質問ぜめに。品物を取り出しながら、値段を書いてゆこうなどとのんびり考えていた私たちが甘かった。大変なパニック状態で、値段をよくよく考えているひまもない。私たちは、お互いがどんなものを持ってきたのか見せ合うひまもなく、あっという間にお昼となってしまった。やっとお客さんがとぎれてみんなほっとしていると、隣のおじさんが怖い顔で私の前に立っていた。
「おねーさん、さっきから見てるけど、あんた、本当に商売がへただね。さっき百円で売ってたワイングラスだけど、あれ、すっごくいいものだったろ!十倍の値段でも安いくらいだぜ」と言う。さすがはプロである。自分の商売をしながらも、私たちの品物のチェックもおこたらないのだ。
「ねーさんたちの商品を全部買い取って、おれが売ってやりたいくらいだよ」と私たちの商売っ気のなさにつくづくあきれた様子。そこへお客さんがやって来た。私のコーヒーカップを手にとって
「これ買いたいんだけど、もう少しまけてくれない?」と言う。すると、すかさず隣のおじさんが顔を出し
「ちょっとお客さん、このカップすごくいいものだよ、十分安いんだから、値切っちゃかわいそうだぜ」と、まるでさくらのように言ってくれる。お客さんも、それもそうだというようにそのままの値段で買っていってくれた。おじさんは、やれやれというように首をすくめると自分の店へ戻っていった。

 それにしても物を売るというのは、お客さんの人間性がはっきり見えるのでおもしろい。
「こんなに安くていいんですか?」と言ってうれしそうに買っていってくれる人がいるかと思うと、さんざん品物にケチをつけて三分の一ほどの値で買いたたいていく人もある。印象に残っているのはぬいぐるみを買ってくれたおじいさん。
「このぬいぐるみはいくらですか?」とおっとりと手にとる。「百円です」と答えるとびっくりした顔で「百円?」と聞き返す。百円でも高いのだろうか、と思っていると「百円じゃこのぬいぐるみがあんまりかわいそうだ」と言って三百円おいていった。

 また、東南アジア系と思われる若い男性は、トレーナーを手にとって値段を聞き、三百円だと答えると、「おー高いです」とびっくりした様子。
「でもここのメーカーのものはもともと高いのでお買い得だと思いますけど」と言うと
「でも何回も着て、何回も洗濯したんでしょ?」と言う。一回しか着ていないことを告げると
「え?一回しか着ていないんですか?一回しか着ていないのにもう売ってしまうんですか?」とあきれ顔。たしかによくよく考えもしないで物を安易に買ってしまうところのある私は、それをたしなめられているようで恥ずかしかった。

 色々なお客さんが来てくれたが、「今日は素敵な物が手に入って来たかいがあったわ」と言ってもらえるときがやっぱり一番うれしい。
 陽もかたむき、うすら寒くなってくるとお客さんもめっきり減ってしまった。ありがたいことにほとんどの品物が売れてしまったが、できることなら全部売ってしまいたい。もうどんなに安くてもいいと思い、ただも同然の値をつけてみた。ところが、隣のおじさんはもう片付け始めている。そこへおばさんがやって来て、この時とばかりに大きな三千円の壺を五百円にまけろ、としつこくせまっている。
「そんなに値切るなら買ってもらわなくてもけっこう!おれには明日があるんだからな。そんなんじゃ場所代も出ねーや」と大声でどなった。さすがのおばさんも早々に退散。私たちとは違って、おじさんはこの商売で食べているのだから、プロの意地というものがあるのだ。手際よく車に荷物を積め終わると
「それじゃーな、ねーさんたち、また会うこともあるかもしれねーな」と言って大きく手をふった。私たちも大きく手をふった。たったの六時間という間だったが、いつのまにかおじさんにも情がうつってしまった。あのランプもまわりまわっていつかは誰かの手元を照らすだろう。

 もう、こんな経験もなかなかないと思うが、やってみて初めて気づくことが多いのには驚かされた。何もかも思っていたとおりにはゆかない。これからフリーマーケットに出店しようと思っている方、晴れた日にはくれぐれも帽子をお忘れなく。六時間も陽にさらされているのは結構つらいです。

初出:2001年12月『アユミギャラリーニュース』第52号


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