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私は坂のない町に育った。今までそんなことを意識したことはなかったが、最近『今昔 東京の坂』という本を手にして我が足立区には一つの坂もないことを知ったのだった。そんなささいなことだったが、不思議に新鮮な驚きであった。坂の多い町を歩くときのいいしれない心の高まりは、非日常性からくるものだったのだろう。坂の町に育った人にとって坂は日常化し、平坦な町に暮すことなどちょっと考えられないことなのかもしれない。
坂には物語がある。その坂のあちら側が見えないために詩心が生まれる。時にそこは、冥界への入り口ともなり、この世ならぬものと出会う場所でもある。
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