うたと文・ゆふねなおこ

























日々を歌う 20

 二つの廃線


 もう十年も前のことになるだろうか。軽井沢を訪れるために一月の信越線に乗ったことがあった。その日は雪がちらついたりして夕暮れもずいぶんはやかった。横川駅では碓氷峠をのぼるための、機関車着脱の数分の停止時間がある。私はその間、少しずつ夕闇の濃くなる車窓をぼんやり眺めていた。すると急に視界が明るくなり、うすぼんやりとした闇の中から煌々とライトを灯した機関車がゆっくりと入ってきたのだった。質実剛健、華やかさなどまったくない濃紺とクリーム色の車体。人間にたとえるなら無口で目立たないが正直な働き者といったイメージ。都会からやってきた私たちを、ただ黙々と峠を越えるために押し上げてくれるのだ。その姿を目にしたとき熱いものがこみあげてきたのを、今でもよく覚えている。

 その電気機関車も九月三十日二十二時四十五分横川発を最後に姿を消すことになった。たぶんこのアユミギャラリー通信が皆さんの手もとに届く頃には、信越線横川〜軽井沢間の歴史は、幕をとじていることだろう。

 一九六三年まで使われていたアプト式鉄道(軌道の歯に機関車の歯車をかませて上る)と、今回廃止される信越線横軽間。二つの廃線が、並んだままの人々の記憶から少しづつ遠のいてゆく光景。それはぞっとするほど寂しい。やがて日本中が新幹線の快適(?)な旅でおおいつくされるのかもしれない。風も匂ひも音もない清潔ですみやかな旅。日本は急速に、日毎日毎小さくなっている。

初出:1997年10月『アユミギャラリーニュース』第28号


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