うたと文・ゆふねなおこ


























日々を歌う 19

金 魚 の 夢


 

 両親が縁日で金魚を買ってきた。七年も前にインコを人にあげてしまって以来、生き物のにおいが家から久しく消えていた。俳句のねたにでもなればと、気軽に買ってきたらしいので、金魚を飼うための水槽がちゃんとあるわけでもなかった。水色のグラスに三匹の金魚を入れておいたが、そのうち二匹はすいすい元気よく泳いだあと、その晩あっけなく死んでしまった。残った一匹のため、その晩は水道水を少しづつたらして、たえず新しい水をグラスに入れるようにしてやった。お風呂場では、一晩中水がぽたぽたとしたたり、私は金魚の夢を見てしまった。

 翌朝、金魚はちゃんと生きていた。ひっそりほっそり生きていた。父はパソコンが好きで、その前に一日中座っていることも珍しくないが、金魚が来た日からパソコンをぱったりやらなくなった。水槽も酸素を送る機械もひととおり買って、ことあるごとにのぞきこんでいる。そんな父を見て少なからず母は心配した。生き物を飼うと、どうしてもそれに心をしばられる。幼い頃、私は飼っているインコが死んでしまうことを空想して、たびたび恐ろしい思いをしたものだった。

 それから一週間ほどたつと、金魚はどんよりした目をして苦しそうに横になりだした。私の家族は死にそうな金魚をどこかで意識しことあるごとに水槽をのぞきこんだ。

 金魚はそれから二日ほど生きた。生命力の強いのには驚いたが、こちらも苦しかった。最後は弁慶の立ち往生のように、浮き上がることなく、水草の間にすっくと立った(?)まま死んでいた。

 あれからしばらくたって、また父はパソコンをはじめた。母はほっとしたようだ。私ももう金魚のことは忘れつつあるが、それでもときおり、金魚をうずめた土の夢をみることがある。

初出:1997年8月『アユミギャラリーニュース』第26号


戻る   ■  目次へ     次へ