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桜の季節がやってくる。
桜にたいする特別な思いは、どこから沸いてくるのだろう。美しいという言葉では、表現できない「狂」をどこかに含んでいる。満開の桜の中にいると、ふと自分の存在も桜の存在もだんだんと透きとおってしまいには何もなくなってしまうような錯覚におちいることがある。一人で見ていてこれほど不思議に寂しい花もないように思う。
ある日、桜の夢を見た。その夢の中で私は一本の桜の木になっている。そして小さな駅を静かに見つめていた。重なるようにつづく山々には、桜だけが植えられ、それが今まさに満開なのであった。これほど見事に咲いているのに、それを見る人は一人もいない。あの夢の中で、桜の花びらは一枚も散らなかった。それは凄絶な光景である。散らない桜ほど恐ろしいものもない。
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