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ソルマック・キョウコ
「チョット!なんでトイレがバンザイしたままなのヨォ!」 「ふぁあ?」 だいたい、そんな気のない返事にもカチンときた。 「な・ん・で、トイレの便座が上ったままなのか?って聞いてるの!」 「あぁ・・・、なんだ、そんな事か・・・。」 「そんな事ってなにヨォ!」 「どっちだっていいだろ、そんな事。」 そう言うとヒロシはテレビを見つつ、ゴロンと左腕を枕にして、私に背を向けながら横になった。 「チョット!ヒロシは私の事どう思ってるのヨォ?」 「どう?って・・・。」 「だいたい、思いやりってのが足らないのヨォ!」 「なに怒ってんだよ!どっちだっていいだろ!ココはオレん家なんだし。」 確かにそうだ。でもそれは、私のトコの方が広かったけど、ココの方が駅に近いからって、二人で決めた事だった。 「ヒロシ変わったワ!前はこんなんじゃなかった!もういい!」 「なんなんだよ?!」 そんな事を言うつもりじゃなかった。それ以来、私たちは口をきかなくなってしまった。 なにもこのトイレバンザイ事件だけが原因ではなかった。他にも、ドアをちゃんと閉めないとか、安アパートなのにドタドタ歩くとか、何にでも醤油を掛けるとか、私はヒロシの些細な仕草になぜかいちいちイラついていた。 こんな筈じゃなかった。私はヒロシとうまくやっていける自信があった。 月曜日、学食で私はナオコに溜まっていたモヤモヤを発散していた。 「チョット!ひどいと思わない!」 「あぁ・・・恋の季節は過ぎ去ったか・・・。」 「エッ!なにヨォ!それ!」 「恋なんてもんはサ。流行病(はやりやまい)っていうか催眠術みたいなもんなのよ。」 「催眠術・・・・・・?」 「そう、キョウコこそ、彼の事どう思ってんのよ。」 「私?私は・・・」 「恋は儚きこそ美しき・・・ってか?」 「チョット!怒るわよ!」 「キョウコはまだ夢の中にいたいんだ。」 「夢の中・・・・・・?」 なんとかしなきゃ。私はそう思った。 また日曜日がやって来た 「あのサァ。」 「なにヨォ!」 「まだ怒ってんのかよ。」 「そんな事ないわヨォ!」 「・・・サティス見に行こうか?」 「なにヨォ!それ!」 「いやっ。INAXの便器なんだけどサァ・・・。タンクが無いってのがウリなんだけど・・・。いやっ。自動でサァ・・・、フタとか閉まっちゃったりすんだよ・・・。」 私たちにそんなもの買える訳はないし、第一ヒロシはそういう自動ものが嫌いである。 「チョット!そんなもんで誤魔化そうとしてるの?」 また言ってしまった。 「いやっ。事務所の先輩が見て来いって言うし・・・。」 そういう事か。大方、今設計中の住宅か何かで使うのだろう。新人パシリだ。私はパシリのお供か?そう思うとまたムカムカしてきた。 と同時に、イヤ、こんな事でキレたらいけない、こんな事で終わる訳にはいかないと、今度は踏みとどまった。彼はトイレを見に行くという口実で、私をデートに誘っているのだ。それにしても、それならそうと言えばいいのに・・・、もっと違ういい誘い方もあるだろうに・・・、と思うのであるが、良く考えてみると、そういう事が上手な男だったら、そもそも私はココに居ない。とも思った。 私たちは、ひさしぶりに大学通りを一緒に歩いた。通りのサクラが満開だった。気が付かなかった毎日通っていたのに。 第3回みんなのコラム!・優秀作品
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| 選者寸評 春にふさわしい今回のお題にストーリー仕立てで挑んだ作者は、若くて素朴なカップルのさりげない日常を描きながら、ほのぼのとした微笑ましい恋話(起承転結あり)にまとめている。男と女は、どうしてこうも思考回路が違うのだろう……そこがまた、恋の醍醐味だったりするのだけれど……などと読者(男女とも)を共感させてしまう自然な会話も魅力となっている。恋は夢の中、流行病か催眠術かと友人は言う。だからこそ、ずっと醒めたくないと古今東西の恋人たちは願うのである。ど根性ガエル世代(推定40前後?)と思しき作者は、若い頃の純粋な恋心を思い出しながら、優しいまなざしで主人公を見つめているのだろうか。それとも、現在まさに夢の中なのか(羨ましい)。いずれにしても、恋してる時がいちばん幸せ……これだけは真実だろう。 |