[ 飯田橋の亀池 ]

 飯田橋駅のすぐ脇にお堀の水が地下へと流れ込んで行く場所がある。柵で囲われたこの場所には人が入ってこないせいか以前からコサギがよく来ていた。茶緑色に濁った水とぽっかりと穿たれた大きな暗渠の入り口の前に立つ真っ白なコサギの姿は非常に印象的で、さながら妖精の如くだと常々思っていた。
 その日は快晴で、四月だというのに突然夏にでもなったかのような日だった。今日もコサギいるかな?となにげなく視線を向けると、何かが泳いでいる姿が目に入った。コイ、ではない。カメだ。しかも1匹、2匹、3……8匹!その日からボクはここを通る度に観察することにした。
 カメは側頭部に赤いスジがあることから、ミシシッピアカミミガメだと推測される。これは縁日やペットショップでよく売られているミドリガメの成体で、大人になると身体の色は深い深い緑色になる。きっと飼いおおせなくなって捨てられたのだろう。観察するようになって気が付いたのだが、ここの水嵩は日によって大分差があり、水が少ない時は底が見えることもある。こんな時は気持ちよさそうに甲羅干をしているカメ達の姿を見ることができる。また、コサギやアカミミガメの他にもカモ、ゴイサギ、それにスッポンを見かけることもある。そんな生物に満ちあふれた水辺には様々なゴミも溢れている。コンビニの袋、工事現場のポール、ペットボトル等々…。カメもゴミもどちらも人間に買われて、要らなくなって捨てられたモノ達なのだろうか。水辺の上方に目を移すと、色とりどりの看板に埋め尽くされた神楽坂の町が見える。英会話の看板、出版社の看板、綺麗な女性が微笑みかけている看板、なかにはバブル期に流行ったが最近つぶれたディスコの看板もある。そして更にその先には30階建の高層マンションがそびえている。
 水辺では今日もカメたちはのんびりゆったり泳ぎまわり、コサギやゴイサギはじっと獲物を狙っている。彼らにとって人が入ってこないこの場所は居心地の良い住み処なのだろう。それにしてもあのスッポンはどこから来たのだろうか?…そういえば神楽坂にスッポン料理の店があった…。…ボクは人通りの無くなった真夜中に神楽坂を飯田橋に向かってゆっくりと逃走するスッポンの姿を思い浮かべてしまった。

アユミギャラリーニュース67号(2004年6月)に掲載 

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