[ 寒い夜の出来事 ]

 このところ、地球は本当に温暖化してるのか?という程の寒い日が続いている。こういう寒い日は、昔、屋台のラーメン屋なんかによく行った事を思い出す。行くのは決まって寒い日のさらに寒い深夜だった。昔というのは、まだケータイなんかが無かった頃とだけ言っておく。
 湘南の湾岸通り沿いの駐車場に軽トラックでやってくる屋台に行った時の事である。
 軽トラックは道路脇に停められていて、その前の駐車場はサーファーと暴走族が軍団で睨みを効かせあうピリピリした異様な雰囲気が漂っていた。
 「おっちゃん、しょうゆ二つ」体重100kgを越すボクの連れの男が頼む。
 「あいよ!」おっちゃんは威勢がいい。
 おっちゃんは狭い軽トラックの荷台で手際よくラーメンをつくり始めた。
 パパラパ!パパラパ!パパラパ!
 効果音を響かせて、族のバイクが数台、軽トラ屋台の向こうを走り抜けていった。とその時、バコッと鈍い音がしたと思ったら次の瞬間「このヤロオォォーッ!」と叫びながらサーファーのひとりがすっ飛んできた。そしてみるみるうちにギャラリーは膨れ上がり、あっという間に少なくとも100人を越す人だかりができて、サーファーと族の掴み合いの乱闘がおっ始まった。ボクはその光景を呆然とただ見ているだけであった。
 「あぁーッ血が出る!」「テメーらなんてことしてくれんだ!」
 乱闘が過激になっていく中、おっちゃんは見向きもしないでラーメンづくりに没頭していた。
 「だ、大丈夫なのかなぁ」と呟くと、相変わらず威勢のいい「へい!お待ち!」のかけ声と共にしょうゆラーメンが出てきた。ボクはおっちゃんの左手の親指が第2関節までズボッとスープに突っ込んでいたのを見てしまい「あぁーッ!」と思わず指さして叫んでしまった。
 「大丈夫、大丈夫、慣れてるから」
 えっ!大丈夫?なにが?慣れてる?なにが?と何がなんだか訳が判らなくなって、ふと隣を見ると、ボクをここへ連れてきた張本人の不良デブは何事もなかったかのようにラーメンを食べていた。
 「おかわり!」
 「ええっ!おかわりなんてあんの?」
 「おぉ。替え玉はタダなんだよ」とその不良デブは言った。
 そうこうしていると、救急車がやって来て、男が頭を押さえながら乗り込んでいった。
 「大丈夫なのかなぁ」とまた呟く、「ヘイ!お待ち!」「うわぁぁーっ!」またしても親指が……!「だから大丈夫だって」。だきゃらぁ大丈夫って何がだよ?
 「オメーら失せろ!」「なんだとーぉ!」こっちもまたおっ始まんのかよ。
 そんな寒い冬の夜の出来事であった。

アユミギャラリーニュース65号(2004年2月)に掲載 

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