[ 働かない働きアリ ]

 働かない働きアリというのがいるそうである。
 これは最近、北海道大大学院農学研究科の研究チームが5ヶ月間に渡りアリを一匹一匹選別しそれぞれの生態を調べた結果、明らかになった。アリは分業による緻密な組織社会を形成している事で知られており、働きアリは与えられた役割―例えば、エサを集める、ゴミを捨てる、幼虫の世話をする等―といった事を地道にただひたすら全うするはずであるが、その一部が、ほとんど仕事をせず、中には全く働かないアリもいたというから驚きだ。その数はひとつのコロニーに約2割いるとの事で、働かない事に加えて、エサはハードワークを続ける他の働きアリから口移しでもらっていたというから呆れかえる。これではキリギリス以下かもしれない。
 「どこの世界でもこういう腑抜けたヤツがいるもんなんだ。」で話が終らないのは、キリギリスのように後で困った事になるどころか、これがベスト布陣らしいからである。つまり、エサ集めに優れた精鋭だけの集団よりも、この働かない腑抜けアリがいた集団の方がエサが多く集まるというのである。
 これはどういう訳であろう?この先は今後の研究成果を待たなければならないが、アリは完全な分業体制を敷いているのであるから、働かないように見えて実はまだ我々が知らない何かの役割を果たしているのかもしれない。あるいは、年老いてしまってもう働けないのかもしれない。
 問題はこの働かないアリはやっぱり腑抜けだ。となった場合である。
 近頃、話題の古武術は自然の摂理に則している事が注目されているが、そのひとつにバランスを欠いた姿勢を取ることから倒れようとするといった、自然に生じた動きを利用する体の使い方がある。普通、強いパンチを繰り出そうとするには、思いっきり体を捻りその反動からエネルギーを得るが、古武術では捻る事はしない。自然エネルギーを取り入れ増幅させるといった感じである。それはどうやら「不安定さ」から生じている。
 また、ノーベル賞受賞で一躍人気者となった田中耕一さんは著書『生涯最高の失敗』の中でノーベル博物館のリンクビスト館長の言葉を引用し、独創性を生む環境は「組織の不安定な状態」であると紹介している。
 あるいは、先日の東京国際マラソンでは、過去最高の完璧なまでの仕上りとされていた高橋尚子選手であったが、結果はレース後半に過去最悪のブレーキに見まわれマラソン7連勝を逸している。
 もし、アリ社会が組織的不安定をも包括した組織的効率を実現していたとするなら、それは驚異と言うほかないであろう。

アユミギャラリーニュース64号(2003年12月)に掲載 

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