[ 涙のストライキ ]

 70年に及ぶプロ野球の歴史上初めて、ついにストが決行された。
 この問題は近鉄バファローズとオリックスブルーウェーブとの合併騒動に端を発した。実はもう一組の合併話も有り、結局こちらは破談に終わったが、球団数を減らし1リーグ制へ縮小移行し経営安定を図ろうとする経営者側の企みが露呈した。つまり、巨額赤字経営に窮するパ・リーグをどうにかしようとの経営論理が働いたのである。これに対して、合併差し止めを要求、12球団2リーグ制堅持を訴え、立ち上がったのが選手会だったのである。
 この交渉は球団経営者と選手とのいわゆる労使交渉の形を取っていた。通常、労使交渉は賃金などの労働条件などが争点となるが、この度はちょっと違っていた。ある球団オーナーは「合併後も雇用は確保すると明言しているにも拘らず、ストに踏切る事は理解できない」とコメント。また、ある代表は「経営事項について選手が口出しするのは不当である」と憤慨していた。しかし、そんな事は承知の上での選手会の抵抗なのである。主張は、みみっちい損得勘定を遥かに飛び越え、ファンも含めた球界全体を見据え、大きくは野球文化の未来を憂いていた。
 経営者だけの密室で合併は決定され球界再編までしようとしていた経営者の態度は、何をどうするかは所有者にその権限があるのであって如何様にしても勝手である、とでも言いたげだ。まちの景観やまちづくりの問題とダブるところがある。バファローズは、まちの人々の嘆願も空しく、金の切れ目が縁の切れ目の如く壊されていく歴史を重ねてきた建物のようである。それによってまちの景観が激変し、場合によってはまちづくりの拠り所を失いまちが衰退していく事もある。球団は即ちプロ野球という「風景」を織り成すものであり、それを取り巻く野球という「まち」があるとの認識が大きく欠落している。

 9月17日、日本プロ野球機構(NPB)と選手会との交渉が2度の時間延長の末決裂、夜9時すぎ、スト突入の記者会見の様子がTVに映し出されていた。
眉をピクリともさせず、損害賠償請求をも示唆する用意された原稿を淡々と読み上げる機構側代表。「誠に遺憾ながら」がそらぞらしく聞こえる。一方、「ファンに野球を見せる事ができなくて申し訳ない!」と一言一言絞り出すように侘びる古田選手会会長。その後も古田会長は深夜までTV各局のスポーツ番組に出演、涙にくれた。プロ野球という「風景」への愛着、野球という「まち」への情熱がヒシヒシと伝わってきた。正に苦渋の決断、涙のストライキであった。



アユミギャラリーニュース69号(2004年10月)に掲載 

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