[ 1991年の秋と『村野籐吾著作集』 ]

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 その後、気分が解放されたのか、進行している仕事や出来事に対してやや呑気にかまえ、《人の生と死と仕事》ということを漠然と考えながら、折にふれて開いていた『村野藤吾著作集』(同朋合)をじっくり読み進めていった。
 自らのおかれた状況にあわせて、自らの意志による本の選択であったと言いたいのだが、白状してしまうと、じつは住宅建築の編集室で田中須美子さんから、「いい本があるからこれで原稿を」と、ずっしり重いこの著作集を手渡されたことがきっかけだった。
 この本で原稿を書くのはとても無理だと即座にわかったが、読んでみたいという気持ちが優先して、断ることのできなかった本であった。書くことよりも読んでみることが重要だと感じたのかもしれない。著者の人生にひそかに同席するように、本の中に耳を傾けることが何より大切だと自分に言い聞かせていたのだろう。
 とりあえず読んでみて、あとから書くことがついてくるかもしれない。でも書けなくてもいい、書けるものではない、と思えた過分な宿題のはじまりだった。ところが彼女からは、追って厳重な締め切り日の通知があった。


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