『村野籐吾著作集』
 村野籐吾著
 同朋舎出版
 1991.7


[ 1991年の秋と『村野籐吾著作集』 ]

1 揺らぎ              12345

 この秋(1991年)は、ささやかなぼくの人生にとって、感慨深い出来事が連続した季節であったように思える。ある意味では、これは新しい出発点、開示ではないかと噛みしめていた季節でもあった。
 その感慨深い出来事というのは、義父である明治生まれの建築家の急逝であり(『住宅建築』1985年10月号に作品紹介)、実父の病いであり、ぼく自身の健康の揺らぎであり、同胞との邂逅、その仲間と協同で仕事をしていくこと、その中で風景の原点、教育の原点をみつめること、これらすべてにぼくの旅の中の風景が、教師としての時間が、生活の在り方が重なっていたこと、といえるだろう。どこかが壊れていく、何かがひっくり返ってきた、という感覚もあった。
 ごくあたりまえのこと、といわれてしまうかもしれない。どの出来事も本来日常的なことだといえそうだ。ほんとうはあたりまえのことと軽く受けとめて、大自然の運行、あるいはそのひとつの点景として観察しなければならないことなのだが、そうもいかずに渦中の人となり、ぼくの中の基礎の部分が揺らいでいたのかもしれない。


  index