[ 二つの旅 ]

2 いつか何処かで                123

 1989年冬、増田悦子は、ポルトガルのリスボンで逝ってしまった。スペインで初めての恋を知り、抱えきれない未来を準備していた21歳のあまりにも無残な。リスボン郊外のオエイラスの夕暮れ時、国道6号繰を横切ろうとして、24歳の若い男の運転する車に吹き飛ばされた。ぎっしり詰まった青春の夢があっというまに破裂してしまった。
 太平洋でなく、大西洋ではあるが、沈む夕陽の美しい海岸沿い、故郷の相良町と同じようなところで、死んだ。

空にむかって叫ぶこと
世界中、みんな同じ太陽を見上げているってこと
レモンが黄色ってこと
時計がぐるぐる回り続けているってこと
いろんな人が生きているってこと
海にむかって叫ぶこと
世界中、たくさんのお父さんとお母さんがいるってこと
葉っぱが緑色だってこと
眠らない都会があるってこと
いろんなものが生きているってこと

みんなにむかって叫ぶこと
世界中、いろんな種類の人間がいるってこと
夕日が赤いってこと
誰もが何かを探してるってこと
私が生きているってこと

(1988年6月19日の日記より)

 この本は、母親の増田初江さんが、著者の生きた「あかし」を形にしたいと編み、一周忌にあわせて発刊された。残念ながら増田悦子はもう戻らない。しかし、この本によって、彼女はこれからも生き続けるはずである。

『住宅建築』1990年4月号 「私の本棚から」に掲載 

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