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4 この家には35年も住んだんだ(昆明青雲街) 朱色に塗られた板壁、日乾煉瓦の上に白い漆喰を塗った壁。長屋形式の建物と建物の境には防火壁としての卯建うだつも上がっている。いつ頃建てられたものか、洋風のアーチやペディメントを持った家もある。数少なくなってしまったが一顆印式の民家も見られる。古い建物で軒をつらねた青雲街。しかしどの建物の壁にも「拆」という字が赤く書かれていた。 この「拆」という字は取り壊しを意味している言葉である。つまり、この街並みは近々一掃されてしまうようなのである。塀や大門には房屋拆迂公告が貼られている。すでに人の気配がしないひっそりした寂しげな家も多い。 夕暮れ時、もう描くことのできなくなる風景を黙々とスケッチしていると男が話しかけてきた。聞けば、絵の中の建物に住んでいるという。李永鈞と名乗ったその男はまず「永遠消失」という字を書いて大きなため息をついた。何を喋っているのか正確にはわからないが、身振りと筆談をつなげて会話にしてみると、 「残念だよ。あの門をくぐって右側の耳房が俺の部屋だ。来週には取り壊されてしまう。俺は毎晩さよならを言ってるんだ。この通りは昔、人民服を着た男たちばかりだった。朝早くからマントウ売りや油条屋で賑わって、夜は夜で蝋燭を灯した荷車がたくさん往来していた。なあ画家先生、その絵を俺にくれないかい。だって俺はここに35年もずっと暮らして来たんだぜ」 彼もまた「自分の巣立ってきた家が壊れてゆくことをどう受けとめたらいいのか」困惑している人間だったにちがいない。 index ![]() |