『古民家再生術』 古民家再生工房著 住まいの図書館出版局 |
2 対象に限りなく接近する 「何を考えてるの?」と榎さん。 「この本のここね、建築を観察するということにしてみると、確かにそういうことが言えるんですよ。まず、対象との対話、これが僕流にいうとスケッチであったり実測であったりするんですね。そういう場合、やっぱり僕はその前にひれ伏しているということがあるんだな」 「ふーん、まず対象に限りなく接近するというわけ……」 「そう、頭で考えるより手足で考える」 僕は『古民家再生術』という本の中で、友人建築家の神家昭雄さんがスケッチと実測についてこんなことを語っていたことを思い出す。民家の再生で大切なのは、現状の建物を正確に理解することで、そのための実測調査は、避けて通れない作業であるのだが、そこには十分に面白くて貴重な発見がある。つまり、その建物の履歴や物語を辿れる。過去に住んだ人たちの生き方までが浮かび上がってくる、としている。また、旅に出るとスケッチブックを開き、古い街並、崩れかけた遺跡、アノニマスな風景を無心で描いているのだが、その中に潜む多様な風土や伝統、文化や生活などあらゆるものを感じとっている、とも。 まちや建築を保存し再生していくことは、いま最も大切なテーマだと僕は思っているのだが彼の基本態度はすごくよくわかる。平良敬一氏がよく言う〈風景の体験があってはじめて身のうちに感得しえる事柄〉なのだろう。 DRINKING WINE 「鈴木さん、最近はどこらあたりの対象に接近してきたの?」 「ポーランドのワルシャワ、クラクフあたり」 「ワルシャワは第二次世界大戦でナチス軍に徹底的に破壊されたんだよね」 「そう、旧市街の広場に面する歴史博物館でその壊滅状態の写真を見たんだけれど、ひどいものだった。それをワルシャワ市民は丹念に、しかもまっさきに再生していった」 「壁の割れ目まで復元した、というのは有名な話だね」 「その執拗な仕事ぶりには実際驚かざるをえなかった。建物の全体的な意匠はむろん石積みの形からコーナーストーンの位置、それに看板や家々の紋章にいたるまで忠実に復元している。戦前の緻密な風景画や写真・実測図面が重要な基礎資料になったんだ」 「なぜ彼らがそこまでやったのかという問題は単純に捉えられないないな」 「うん、そうなんだよね。街を元に戻すことは彼らのアイディンティティを固く保持することだった。かつてと同じように復元するのは手間ひまかかることではあるけれど、彼らの世界をあらためてディフェンスすることだった」 「つまり、まちを再生することは彼らの闘いだった……」 DRINKING WINE、ラ・カンティネッタの夜はこんなふうにいつのまにか主題であるワインセラーのあり方から遠のいていった。ポーランドの旅へと。 index ![]() |