神楽坂美術塾 スケッチ旅行報告

三浦海岸スケッチ旅行(第三期最終講座3月21日〜22日)

 2003年3月21日〜22日、神楽坂美術塾第三期最後の講座のスケッチ旅行が三浦半島にて行われました。神楽坂美術塾では最終講座として一泊スケッチ旅行を行うことになっており、塾長(鈴木喜一)を含め13人が参加しました。

 3月21日、13時、京浜急行三浦海岸駅に集合した一行は、駅前から剱崎行きのバスに乗り込んだ。バスは海岸沿いをゆっくり走り、15分程の丘の上にある剱崎バス停でバスを降り、宿泊先の「民宿山幸」へ向かった。早春の暖かな陽射しを受けながら、キャベツ畑と大根畑の広がるのどかな田園を歩くと、ずっと先には相模湾?が見え隠れしている。途中、足を止め写真を撮る者、今日のスケッチポイントは……、と考える者、今夜のためにと日本酒とおつまみを買う者等々、ゆったりとした時間が流れる。

 宿は剱崎バス停から15分程歩いた大浦港という漁港に面した二階建ての民宿で、家庭的な雰囲気ときれいな女将さんが心和ませる。お茶で一服すると、今日のスケジュールが説明される。塾では事前におおまかなスケジュールを決めておくのだが、現地にて変更することが多々ある……。
 「18時には夕食です。それまでは自由行動ですが、スケッチ1枚を仕上げてください」今回も、告げられたスケジュールはこの程度で、18時までの4時間程の時間をどのように使い切るかは各自に委ねられた。塾生達は一人また一人と宿を出て、散歩でもするようにスケッチポイントを探し始める。さっそく漁港に腰を下ろし描き始めたのは“ズバッと田中”こと田中健二。海沿いを歩いて剱崎灯台まで足を伸ばす魚谷親子、スケッチそっちのけでアメフラシなる奇っ怪な生物と戯れる“蟲好き酒井草平”、それぞれのスタイルがある。ちなみに塾長・鈴木喜一は昼寝をしていた。なのにそれから10枚のスケッチ(修了証書用)をしたという。おそるべし!

アメフラシと戯れる草平さん
美しい大浦海岸の夕焼け

 18時、大浦海岸に日が沈む。4月も間近とはいえ、朝晩はぐーんと冷える。寒さの中のスケッチを終えた塾生達を待っていたのは暖かな部屋と新鮮な海の料理!大広間へ移動し夕食となり、旅館のサービスのビール(山幸さん、謝謝!)で最初の乾杯。続いて熱燗が運ばれ、鯛の塩焼き、山菜と野菜、エビの天ぷら、茶わん蒸し、お刺し身、サザエ、ワカメご飯、豆腐のお味噌汁等々、所狭しと料理が並んでいる。そんな料理もあっという間に絵はがきにしてしまうのは“早描きのおジュン”こと魚谷純子。食べる前に手早く色をつけて、最後に「民宿山幸」の文字と電話番号等が書かれた割りばし袋をちぎって貼って、やっと料理に箸をつける。食べることと同じくらい描くことが好きな美術塾での恒例の風景である。

夕食のスケッチ
魚谷純子さんのスケッチ
“早描きのおジュン”こと魚谷純子さん

 19時頃、修了証書授与式が始まる。塾長より手渡される修了証書には、崖の上にそびえ立つ剱崎灯台と、その下に広がる静かな夕暮れの海が描かれていた。塾長直筆の証書は毎年このスケッチ会にて作成され、出来立てほやほやの状態で塾生一人一人に手渡される。中には突然の突風にさらわれて海へ落ちた証書もあったりして、ちょっとしょっぱい特別な一枚もよい記念となった。

しょっぱい証書を受け取る酒井草平さん
塾頭・岡田光敏さん
ニ年目を終えた小楠菜穂子さん

 証書授与後、描いたばかりのスケッチの講評会となり、一人ずつ感想とともに絵を披露していく。スピードにのって2枚描いた人、広がる風景を描こうと画面を越え前頁の裏に渡って描いた田中丸純子、水面に映る船を高度な技術をもって描き上げた岡田光敏。お互いの作品を見ることもまた勉強となる。寒かったがなんとか描きあげた、気持ち良く描けた、磯溜まりの生物達と交流を深めるあまり時間が足りなくなった等々の感想がでた。その後はスケッチの話をしたり、ギター片手に歌ったりしながら夜は更けていく。就寝前、「明日の早朝、日の出をスケッチしに行こう!5時半起きだ!」とはりきるのは“仕事に恋に大わらわ”佐渡屋秀樹。朝食前にはまた新しい作品ができ上がるに違いない。

2頁に渡って描いたのは田中丸純子さん
畑の中に座って描く田中丸さん

キャベツ畑の風景(草道康代)
遅刻しても素早く2枚描いた田中健二さん

 3月22日、7時半。朝食前というのに塾生達の姿は宿になかった。薄曇りの空の下、どこかの風景に向かって絵筆を走らせているのだろう。8時朝食。ほとんどの塾生達は既に早朝スケッチを終えてお腹を空かせている様子。なんせスケッチを描くってのは気力と体力を使うものなのだ。それでも朝食をさっと描いて宿を出る。三崎口行きのバスまであと15分と迫っていた。バス停までダッシュする若手の塾生を横目に、ゆったりと宿の車に送ってもらう年配の塾長と塾生。なんとかバスに間に合い、本日の目的地、城ヶ島を目指す。北原白秋の「雨はふるふる城ヶ島〜」の詩でも有名な城ヶ島へは、乗り換えのバスに乗り遅れたせいもあって島と半島をつなぐ大橋を歩いて渡ることとなった。冷たい風が身にしみる。今日のスケッチは寒さとの戦いになるとみな感じている様子。城ヶ島灯台まで約1.2キロメートルを歩き、2時間のスケッチタイムとなった。

佐渡屋秀樹
朝焼けの釼崎灯台(酒井草平)
宿の窓から(魚谷純子)

城ケ島(村上登美江)
大浦海岸(村上登美江)
城ケ島Part2(村上登美江)

2時間後。描き終えた順に梶ノ亭に集まり、昼食をとりながらの講評会となった。灯台や海、奇怪な岩が描かれたスケッチブックが、定食屋の座敷に敷き詰められる。風が強かったため、絵の中の草木も風に吹かれて、どの絵も寒そうな絵となっている。「海を描くのはむづかしい」という塾生の絵の横には、塾長の描いた海が4枚も並んでいたりする……。一泊2日という短期間ででき上がった絵は大きいものから葉書サイズのものまで数十枚におよび、締めくくりにお昼ご飯を描いて第3期の講座が終了した。

魚谷幸子さんのスケッチも2頁に渡っている
幸子さんは実は魚谷純子さんの母

塾長と草平さんは相撲友達
バスを待つ塾生たち
塾長の描いた四枚の海

◎塾生からの感想
魚谷純子:
 第3期美術塾最後の講座として行われた三浦半島スケッチツアーに参加してきました。
 初日は天気も良く、とても暖かかったので、スケッチをするには最適でした。しかし、夕方からは冷え込んできて、2日目は天気も悪く寒かったです。塾生のみんなが「寒い、寒い」と文句を言いながらも、誰1人スケッチを止めないのがおかしかったです。本当に絵を描くのが好きな人達の集まりなんだなぁと実感しました。
 スケッチの後は美術塾恒例の宴会…ではなく講評会があり、お酒を飲みながら現地の美味い物を頂くという、美術塾らしいスケッチツアーでとても楽しかったです。


田中丸純子:
 訪れたのは三浦半島の房総側、剣崎、宿の住所は松輪といいますが何だかとても懐かしく心地よい場所でした。バス停から宿までの道のりは、うねうねと続くキャベツ畑。港に下る坂道に差しかかると船が浮かんでいるのが見えてきます。道を上ったり下ったり角を曲がったりその向こう側に景色が現れるのはとても楽しいです。
 その知らない風景の中に、自分の好きな色や形を見つけるのもまた楽しい作業ですが、これはスケッチ旅行なので気に入った風景の中に自分が描きたい(描けそうな)風景探しもしなくてはいけません。それが初心者にとっては苦労の種なのです。それでも久しぶりに建物に囲まれた東京から離れて広い風景の中の一点となり、下手な絵にも集中できたことは、それだけのいい時間となりました。ご一緒させて頂いた皆様は、さすがに旅の達人揃いで感心することしきりでした。楽しい旅をありがとうございました。


神楽坂美術塾が訪れた三浦海岸は神奈川県南部に位置し、横浜から1時間程しか離れていないにもかかわらず、田園と小さな漁港が穏やかに佇む地域で、素朴な田舎の美しさがあるように思われた。神楽坂美術塾では、こういった身近にある美しい風景を描くことが多い。じっくり対象物と向かい合い、塾生それぞれが感じた三浦海岸を描き出す。上手に描くかどうかよりも、その日その場所は寒かったのか暑かったのか、風は強かったのか、陽射しは……等々、その場所の記憶を絵の中に閉じこめてしまおうというスタンスで描くことを教える塾である

◎写真提供 魚谷幸子さん


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